大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)611号 判決

本籍

東京都杉並区善福寺町三六二番地

住居

同都同区同町三五六番地

無職

栗原司行

大正一四年九月一〇日生

右窃盗被告事件について昭和二七年一〇月二〇日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人海野普吉、同江橋英五郎の上告趣意第一点について。

論旨は窃盗既遂の時について原判決の下した判断が大審院の判例に違反すると主張する。しかし当裁判所の判例(昭和二三年(れ)六七五号同年一〇月二三日第二小法廷判決、昭和二三年(れ)一一三二号同年一二月二七日第一小法廷判決等)はいずれも、不法領得の意思をもつて事実上他人の支配内にある物件を自己の支配内に移したときは茲に窃盗罪は既遂の域に達するものであつて、必ずしも犯人がこれを自由に処分し得べき安全な位置におくことを必要としない、としている。本件において原判決は、「被告人が杉本敦のズボン右後ポケット内より判示財布を抜きとりこれを被告人の手中に収めた」と認定している。この事実はいわゆる「自己の支配内に移した」ことを意味するものと認められる。従つて原判決がこれを窃盗罪の既遂としたことは判例に違反するものでなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

量刑不当の主張であつて適法な上告理由とならない。

なお記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例